一級製図・一級建築士製図試験の合格には、全部を完璧に仕上げる学習よりも、法適合・設計条件・要求図書への適合を答案上で確認できる状態にすることが重要です。この記事では、プラスデザインが製図指導で重視する「身の丈に合わせた戦い方」と「mustを落とさない答案づくり」を整理します。
長年、講師をやっていて思うことがある。一級建築士の製図試験は、自分の身の丈に合わせた戦い方で臨む方が良い。これは目標を下げることではない。自分の現状を正しく把握したうえで、合格に必要なことを見極め、そこに力を集中することである。
身の丈に合わせるとは、
合格に必要なことを見極めること
身の丈に合わせると言うと、目標を下げることだと受け取る人もいるかもしれない。だが、そうではない。自分を甘やかすことでも、合格を諦めることでもない。
身の丈に合わせた戦い方とは、自分の現状を正しく見たうえで、合格に必要なことを見極めること。そのうえで、不要なことを削り、必要なことを確実に仕上げることである。
製図試験は、やろうと思えばいくらでも難しくできる。より良い平面計画、より整った動線、より美しい図面表現、より詳しい構造・設備の記述、より完成度の高い外構計画。もちろん、全部できるならそれでいい。
ただし、本試験には時間制限がある。受験生ごとに、使える学習時間、体力、実務経験、理解度は違う。仕事が忙しい人もいる。家庭がある人もいる。実務経験が少ない人もいる。逆に、実務経験があっても、建築の全工程を一人で経験しているわけではない。
だから、まず必要なのは、自分が完璧ではないことを認めること。これは弱気になるという意味ではない。現実を正しく測るという意味である。
完璧を目指した結果、
答案全体が不完全になる
製図試験は、採点基準の細部が受験生には見えにくい。また、合格率が一定程度に収まる試験である以上、他の受験生との比較も意識しやすい。だから、多くの受験生は不安になる。
もっとやらないといけない。もっと覚えないといけない。もっときれいに描かないといけない。もっと良い計画にしないといけない。その結果、完璧を目指す。
講師経験に基づく実感
講師として多くの受講生を見てきた実感として、全てを完璧に仕上げられる人は、全体の10%程度にも満たない。これは公的な統計ではなく、これまで受講生の学習過程と本試験結果を見てきたうえでの経験則である。
重要なのは数字そのものではない。大事なのは、合格者全員が完璧な答案を出しているわけではない、ということだ。完璧を目指した結果、要求室が抜ける。面積条件が崩れる。動線が破綻する。構造計画に無理が出る。設備スペースが不足する。図面と記述が合わない。時間内に完成しない。
これは努力不足ではない。戦い方の間違いである。
- きれいな図面を描こうとして要求室が抜ける
- 凝ったプランを考えすぎて時間が足りなくなる
- 記述に時間をかけすぎて図面の重要表現が不足する
- 細部にこだわりすぎて法規確認が甘くなる
- mustを最優先に仕上げる
- 反復表現を圧縮して時間を確保する
- 合否に直結しにくい作業を削る
- 法適合を判断できなくなる省略をしない
合格するために必要なのは、
上位の完璧ではない
令和7年一級建築士試験「設計製図の試験」は、国土交通省が受験者11,381人、合格者3,988人、合格率35.0%と公表している。製図試験だけで見れば、合格者は約3人に1人である。
出典:国土交通省「令和7年一級建築士試験『設計製図の試験』の合格者を決定」
ここで考えるべきことは、1位を取ることではない。完璧な答案を出すことでもない。合格圏内に入ることだ。
完璧ではなくても、合格に必要な条件を確実に押さえた答案は合格している。ここを間違えると、学習の方向がズレる。
mustとは、
採点者が答案上で確認できる根拠である
私が must と呼んでいるのは、合格答案として必ず示すべき根拠である。単に「大事なこと」という意味ではない。
mustとは、法適合、設計条件への適合、要求図書への適合を、採点者が答案上で確認できる状態にするための根拠である。
| 区分 | 合否 | 定義 |
|---|---|---|
| ランクⅠ | 合格 | 知識及び技能を有するもの |
| ランクⅣ | 不合格 | 設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの |
令和7年の設計製図試験の合格基準では、ランクⅠが合格とされ、ランクⅣは「設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの」と定義されている。また、重大な不適合の例として、要求図面の欠落、面積表や計画の要点等の未完成、図面相互の重大な不整合、要求室・施設等の未計画、法令の重大な不適合等が示されている。
まず must を仕上げる。
そのうえで、余力があれば完成度を上げる。
省略するのではなく、
根拠を残して表現を圧縮する
ここで大事なのは、「省略」の意味である。省略すると言うと、必要なことまで書かなくてよいと誤解する人がいる。それは違う。
製図試験で行うべき省略とは、合格に必要な根拠を削ることではない。同じ内容を何度も繰り返す場合に、読み手に伝わる範囲で表現を圧縮することである。
省略記号「〃」
同じ仕上げ、同じ仕様、同じ寸法など、同一内容であることが明確な場合に使う。
1階と同じ・3階に同じ
トイレ内のレイアウトなど、同一内容を繰り返す場合に、表現を圧縮する。
基準階
同じ計画が繰り返される階を代表階として示し、同一性を読み取れる形にする。
実際に、令和6年一級建築士試験「設計製図の試験」の標準解答例では、「基準階平面図(3階平面図を記入する。)」という扱いや、「トイレ内のレイアウトは1階と同じ」といった省略表現が確認できる。つまり、同一内容であることが明確に読み取れる場合には、表現を圧縮すること自体は不適切ではない。
less is more
答案を薄くするのではなく、密度を上げる
私が製図試験の学習で大事にしている考え方は less is more である。無駄を削る。反復表現を圧縮する。合否に直結しにくい作業を減らす。そして、必ず示すべき must を完璧に仕上げる。
- 全部を同じ重さで扱う
- やることが増える
- 迷いが増える
- 時間を失う
- 実力以下の答案になる
- mustに力を集中する
- 反復表現を圧縮する
- 迷いが減る
- 時間に余裕が生まれる
- 合格圏内の答案になる
less is more は、雑にすることではない。
必要なものを残すために、不要なものを削ることである。
少なくすることは、弱くなることではない。合格に必要な部分へ力を集中させるための整理である。答案を薄くするのではない。答案の密度を上げるのである。
講師としての理念
難しい試験を、実行できる形まで分解する
長く講師をやっていると、多くの受講生の学習方法と試験結果を見ることになる。どのような学習をした人が合格したのか。どのような学習をした人が不合格になったのか。どの段階で伸びたのか。どこで崩れたのか。どの指導が効果を出し、どの指導が逆に受験生を迷わせたのか。
こうした積み重ねを見ていくと、単なる感覚ではなく、合否に影響しやすい学習方法が少しずつ見えてくる。もちろん、自分自身が合格した方法もある。ただ、それが全てではない。自分が合格した方法は、あくまで自分に合っていた方法である。その方法が、全ての受験生に合うとは限らない。
だから、講師がやるべきことは、自分の成功体験を押し付けることではない。受験生一人ひとりの状態を見て、その人にとって、どうすれば製図試験の難易度を下げられるかを考えることだと思っている。
合格に必要なことへ絞れば、
一級製図の難易度は下がる
製図試験を難しくしている原因の一つは、やるべきことと、やらなくてもよいことの区別がつかないことである。全部大事に見える。全部やらないと不安になる。全部できないと合格できない気がする。
でも、全部を同じ重さで扱うから、試験が必要以上に難しくなる。合格に必要なことへ絞る。反復表現は圧縮する。must は絶対に落とさない。そのうえで、余力があれば完成度を上げる。この順番に変えるだけで、製図試験の難易度は下がる。
身の丈に合わせた戦い方|5原則
- 自分の現状を正しく知る。現実を測ることが、合格への最初の一歩である。
- 合格に必要なことを見極める。全部を同じ重さで扱う必要はない。
- 反復表現は圧縮する。同一内容が明確であれば、表現の圧縮は技術である。
- 法適合を判断できなくなる省略はしない。これが must の核心である。
- 必ずやるべき must を完璧に仕上げる。これが合格答案の条件である。
製図試験は、全部をやる試験ではない。合格に必要なことを、時間内に、確実にやり切る試験である。
理想の答案ではなく、合格する答案。完璧な答案ではなく、重大な破綻のない答案。全部を詰め込んだ答案ではなく、must を外さない答案。ここを目指す。
参考資料
- 国土交通省「令和7年一級建築士試験『設計製図の試験』の合格者を決定」
https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_001108.html - 公益財団法人 建築技術教育普及センター(JAEIC)「令和7年一級建築士試験『設計製図の試験』合格基準等について」
https://www.jaeic.or.jp/assets/pdf/shiken/1k/1k-mondai/1k-2025-2nd-gokakukijun.pdf - 公益財団法人 建築技術教育普及センター(JAEIC)「令和6年一級建築士試験『設計製図の試験』標準解答例」
https://www.jaeic.or.jp/assets/pdf/shiken/1k/1k-mondai/1k-2024-2nd-hyojunkaito-r.pdf