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一級建築士設計製図試験において、「考慮」と「配慮」を混同している受験生は非常に多い。しかし、この2つは採点上の評価軸として明確に異なるものであり、ここを誤ると答案用紙Ⅱ(計画の要点)の記述方向そのものがズレる。考慮は「成立させるための条件処理」であり、配慮は「価値を高めるための設計行為」である。そして出題者は、この2語を意図的に使い分けて問いを設定している。

似ているが、役割は全く異なる——
2つの言葉の構造的な差

「考慮した」「配慮した」——計画の要点の記述欄でも頻繁に使われるこの2語は、語感が近いために混同されやすい。しかし、その役割は根本的に異なる。

簡潔に定義するならば、考慮は与えられた条件・制約に対して「適合させる」行為であり、配慮は建築として「価値を付加する」行為である。前者を欠けば答案は成立しない。後者を欠けば、成立はしても評価が上がらない。この2つを同列に扱うことが、記述の方向性を誤らせる最大の原因である。

図1|「考慮」と「配慮」の役割比較
考慮 成立させるための条件処理 法令・制約への適合 要求条件の遵守 動線・ゾーニングの確保 未達 → 即失格・大減点 配慮 価値を高めるための設計行為 環境・景観への対応 利用者の快適性・利便性 空間構成の質的向上 弱い → 上位評価に届かない この2つは採点上で異なる評価軸として機能する——対立ではなく、段階の違いである
令和7年試験の傾向分析をもとに図式化
図2|採点ランク構造と「考慮」「配慮」の対応(ランクⅠ〜Ⅳ)
ランク 状態の定義 考慮 配慮 合格 設計条件を満たし、機能的に成立 ✓ 達成 ✓ 実現 不合格(惜しい) 条件は満たすが、機能の質が低い ✓ 達成 △ 不十分 ← 配慮不足で止まる Ⅲ・Ⅳ 不合格(重大な不適合) 設計条件の未達・欠落が認められる Ⅲ:一部不適合 / Ⅳ:全体的に不適合 ✗ 未達 ← 考慮欠落 問われない (土台が成立しない)
採点区分(ランクⅠ〜Ⅳ)をもとに作成
考慮未達は「重大な不適合」として採点され、ランクⅢまたはⅣ相当の評価となる。配慮が不十分な場合はランクⅡ止まりとなり、合格ライン(ランクⅠ)には届かない。この2つは、性質が異なる減点構造として作用する。

考慮とは何か——
「満たさなければ成立しない」条件の処理

考慮とは、与えられた条件・法令・制約に対して、適合させるための判断である。ここで重要なのは「満たしていないと成立しない」という点である。

  • 建築基準法(建ぺい率・容積率・高さ制限・防火区画・バリアフリー法等への対応)
  • 問題用紙に定める条件(要求室の面積・数・配置条件)の遵守
  • 利用者・管理・サービスの適切なゾーニングと明快な動線

これらはすべて「守るべき最低条件」であり、設計の自由度の問題ではない。満たしていない場合、「重大な不適合」として採点上の大減点または失格に直結する。

並列思考における must 軸(問題条件を満たす)の処理が、まさに「考慮」にあたる。must 軸の処理は、エスキスの最初に確立されなければならない前提条件である。

考慮は、評価項目ではない。
評価の土台である。

配慮とは何か——
「どう良くするか」という意思が問われる行為

配慮は、要求される建築像に対して、設計者として価値を付加する行為である。単なる条件処理ではなく、「どう良くするか」という意思が問われる。

ここで重要な概念が「Best」である。mustが問題用紙に明示された条件であるのに対し、Bestとは「具体的に条件とされていないが、計画上の工夫によってより良くする内容」を指す。考慮はmustとBestのいずれも記述対象となりうるが、配慮の記述はBestの内容でなければならない。

  • 周辺環境に対するプライバシーやセキュリティの配慮
  • 自然採光・通風等を活かした平面・断面計画
  • ユニバーサルデザインへの配慮(誰もが利用しやすくなるための工夫)
  • メンテナンスに配慮した設備計画
考慮の記述 → must(問題条件で定められた事項)またはBest(条件外の計画的工夫)のいずれも記述できる。配慮の記述 → Best(計画上の工夫でより良くした内容)の記述でなければならない。「バリアフリー法に対応した」はmustの達成であり考慮の話である。「指定勾配よりも緩やかなスロープで段差を解消した」はBestであり、配慮として記述できる。

これらは問題用紙に明示がなくとも評価される。すなわち、配慮は「差がつく領域」である。並列思考における Function 軸(利用者・管理者にとって建築が機能し、価値があるか)の追求が、配慮の本質に直結する。

配慮は、センスではない。
再現可能な設計操作である。

図2|並列思考の2軸と「考慮」「配慮」の対応関係
並列思考:この2軸を同時に走らせることで、考慮と配慮の両方が実現される must 軸 問題条件・法規・制約を満たす 考慮として実現する Function 軸 利用者・管理者視点で機能・価値を実現 配慮として実現する 採点上のスタートライン 採点上の評価上限を決める軸
並列思考との対応関係を図式化

配慮は「言葉」ではなく「図面」で示す

配慮が採点上で評価されるのは、言葉として記述された時ではなく、図面上に具体的な空間として実現された時である。「〇〇に配慮した」という一文は意思の表明に過ぎず、それが平面図・断面図上で読み取れない限り評価されない。

配慮が図面に変換されるとはどういうことか。以下に代表的な変換例を示す。

図3|「配慮」を図面として実現する——言葉から空間への変換
配慮の内容(記述) 図面・寸法として実現される具体的内容 自然採光への配慮 (採光に配慮した計画) 南・東面への開口設置 + 吹抜け・ハイサイドライトの採用 断面図上に開口位置・高さ・方位を明示する バリアフリーへの配慮 (ユニバーサルデザインの実現) 屋外1/15・屋内1/12以下の基準を超え、水勾配程度まで緩和 段差も2cm以内の基準からさらに踏み込み、段差ゼロで計画する 利用者の交流への配慮 (交流を促す空間構成) 吹抜け・オープンラウンジをコア隣接位置に配置 複数動線が自然に交差する平面構成として図示する 周辺環境への配慮 (景観・騒音への対応) 騒音側へのバッファゾーン(植栽・廊下)+ 開口位置の制限 配置図・平面図上に緩衝帯・開口の向きを明示する
「言葉→空間変換」の代表例
「〇〇に配慮した」という一文は、採点者にとって「意図の宣言」に過ぎない。その宣言が図面上で読み取れるかどうか——開口の位置、寸法の数値、空間の構成として実現されているかどうか——が、配慮の評価を決める。言葉と図面が一致して初めて、配慮は評価対象となる。

出題者は意図的に使い分けている——
答案用紙Ⅱ(計画の要点)が問うもの

設計製図試験の答案用紙Ⅱは、図面とは別に設計意図を言語で説明する記述式の解答欄である。ここでの問いは、単なる感想や方針の表明を求めているのではない。

重要なのは、問題用紙における「考慮」と「配慮」の使い分けが偶然ではないという点である。出題者はこの2語を意図的に区別して使用しており、受験生がその差を理解して記述できているかどうかを評価している。

答案用紙Ⅱ(計画の要点)——出題例のイメージ
令和7年度 設計製図試験|計画の要点(記述式)
「考慮」が使われる問い
・利用者動線と管理動線の分離を考慮した計画について、図示しなさい
・各ゾーンへのアクセスを考慮した、コアの位置とその理由を述べなさい
・防火区画及び避難経路を考慮した計画の要点を記述しなさい
「配慮」が使われる問い
・周辺環境との調和に配慮した外構・植栽計画の要点を述べなさい
・利用者の快適性に配慮した空間構成の工夫について記述しなさい
・自然採光及び通風に配慮した計画の要点を述べなさい

※出題例はイメージです。実際の問題文は公益財団法人建築技術教育普及センターの発表による。

「考慮」を問う設問では、条件として明示された事項が、図面・記述において達成されているかが評価される。これは採点上の「must の確認」であり、答えられなければ減点となる問いである。

「配慮」を問う設問では、設計者としての判断・工夫の内容と、それが空間として具体的に実現されているかが評価される。「どう良くしたか」を問う設問であり、具体性のない「〇〇に配慮しました」という記述は、回答として機能しない。

図3|答案用紙Ⅱにおける「考慮」「配慮」の出題意図と評価軸
考慮を問う設問 配慮を問う設問 出題の性格 must の確認 設計意図・工夫の評価 答えられない場合 条件未達として減点 評価が上がらない 記述に 求められるもの 条件達成の論拠 (「〜した」の理由と根拠) 具体的な設計判断と実現方法 (「どのように」を空間で示す) 出題者はこの2語を意図的に使い分けており、受験生はその区別を理解して記述する必要がある
試験問題の傾向分析をもとに図式化
答案用紙Ⅱにおいて、「考慮」の問いに対して「配慮」レベルの記述(価値付加の説明)を書いても加点されない。逆に「配慮」の問いに対して「考慮」レベルの記述(条件達成の確認)だけを書いても、設計意図の記述としては評価されない。問題用紙に「考慮」と書かれているか「配慮」と書かれているかを確認することが、記述の出発点である。

よくある誤解——
2つの典型的な失敗パターン

多くの受験生が犯す誤りは、1つの根本的な混同に集約される。

典型的な失敗パターン

「考慮」の内容を「配慮」として記述している

建築基準法の規定や問題用紙に定められた条件を実行しただけの内容を、「〇〇に配慮した」と記述するケースである。「法規に配慮した計画」「避難経路に配慮した動線」——これらはmust(問題条件)の達成であり、考慮の話に過ぎない。採点者から見れば「当たり前のことを強調している答案」に映る。また、「自然光に配慮した」「バリアフリーに配慮した」と書くだけで、図面上に具体的な寸法・位置・構成として実現されていない場合も同様である。配慮として評価されるのは、条件として明示されていないBest——計画上の工夫でより良くした内容——が、図面と記述の両方で示されている時だけである。

答案用紙Ⅱにおいて、mustの達成を配慮として記述することは、記述欄を埋めているようで実質的に何も書いていないのと同じである。「配慮した」という言葉の前に必ず問うべきは、「それはmustか、Bestか」である。

正しい順序——
①考慮で成立させ、②配慮で価値を上げる

答案として成立させるための思考には、正しい順序がある。この順序が逆になると、必ず破綻する。

図4|考慮と配慮の正しい処理順序
STEP 1 考慮 法規・条件・機能を満たす 成立後 STEP 2 配慮 課題の主旨に沿って質を高める 合格 ゾーン ⚠ この順序が逆になると(配慮を先行させると)、考慮の欠落が生じ、答案は必ず破綻する

考慮なき配慮は、基礎のない建物と同じである。たとえ答案用紙Ⅱに「〇〇に配慮した」と書かれていても、must 軸の条件処理が完結していなければ採点の土台が存在しない。

「考慮で成立させ、配慮で価値を上げる。
この順序が逆になることは、許されない」

この区別を知らない限り、
安定した合格には到達しない

設計製図試験は「自由に設計してよい試験」ではない。制約の中で成立させ、その上で価値を上げる試験である。

考慮が欠ければ不合格となる。配慮が弱ければ、成立はしても上位評価に届かない。そして答案用紙Ⅱにおいては、出題語を正確に読み取らない限り、記述の方向性そのものが的を外れる。

もし「どこまでが考慮で、どこからが配慮か」を自分で判断できない場合、それは設計ではなく「感覚で描いている状態」である。この段階から抜け出すことが、令和8年(2026年)試験で安定して合格するための最初の一歩である。

整理すると:考慮=成立条件(must またはBestの達成)/配慮=設計価値(Bestの内容を具体的に実現すること)。答案用紙Ⅱの問いにどちらの語が使われているかを確認し、「それはmustか、Bestか」を自分に問うことが、記述の出発点である。